弁護士監修記事

【弁護士監修記事】問題のあるスタッフをスムーズに解雇したい!解雇の種類と注意点

白いブラウスを着た女性の上半身「解雇の種類と注意点」の文字

クリニック院長さまのお悩みと言えば「採用問題」ですよね。中でも、問題のあるスタッフの解雇となるとトラブルがつきものです。

問題のあるスタッフさんに辞めていただくにもルールに沿って適切な段取りを踏む必要があります。いざとなったときに、どのような条件が揃えばスムーズに解雇できるのか?また、どのような方法があるのか予め抑えておきましょう。

採用後の解雇
解雇は大まかに三つあるよ
めるみーちゃん
めるみーちゃん

🐟普通解雇
🐟整理解雇(リストラ)
🐟懲戒解雇

普通解雇

普通解雇とは、労働者の能力不足や勤務態度の悪さなど、労働者側の理由で使用者側から解雇する場合を指します。ただし、解雇の理由は、客観的にみても、社会通念上、解雇されることが相当であると認められる必要があります。(労働契約法第16条)。

解雇に相当する理由の例

解雇の理由として、労働者側の落ち度(勤務態度の問題業務命令や職務規律の違反など)が考えられる。 ただし、1回の失敗ですぐに解雇が認められるわけではない。

解雇の正当性の判断材料

✅労働者の落ち度の程度行為の内容
✅会社が被った損害の重大性
✅労働者の行為が悪意や故意によるものか否か
✅やむを得ない事情の有無

「労働基準監督署にかけこまれた」「訴訟を起こされた」ということも珍しくありませんが、解雇が正当か否かは、最終的には裁判所が決定します。

退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは?

退職勧奨とは、解雇と混同されやすい概念で、使用者が労働者に対して退職を勧めることを指します。

使用者からのアクションは「退職を勧める」、ということにすぎず、労働者は拒否することもできます。他方、退職勧奨に応じて退職する、ということになれば、結果的には労働者側からの任意の退職ということになります。したがって、一方的に使用者から解雇を通告する解雇予告とも異なります。

退職勧奨の特徴

  1. 使用者が労働者に「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って退職を勧める
  2. 労働者の自由意思に基づいて行われる

退職勧奨の注意点

労働者が自由意思で退職勧奨に応じる場合は問題ありませんが、使用者による労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たる可能性があるため注意が必要です。

また、退職勧奨に応じた退職は、離職理由は自己都合ではなく会社都合による退職となります。

合意解約とは?

合意解約とは、労働者と使用者の双方の合意に基づいて労働契約を終了させることを指します。退職勧奨に応じた場合、労働者と使用者の間で労働契約の終了について合意が成立したとみなされるため、合意解約に該当します。

合意解約の特徴は以下の通りです

  1. 労働者と使用者の双方の意思が合致している
  2. 解約理由は、自己都合や会社都合といった区分にはあてはまらない
  3. 退職日や退職条件については、労働者と使用者の間で話し合いが行われる

合意解約の場合、労働者は自己都合退職ではないため、状況によっては雇用保険の失業給付を受けられる可能性があります。ただし、退職理由が自発的である場合、給付制限期間が設けられる場合があります。

また、合意解約の際には、労働者と使用者の間で退職条件(退職日、退職金、有給休暇の取扱いなど)について十分な話し合いが必要です。トラブルを防ぐためにも、合意内容を書面で確認しておくことが重要です。

試用期間があるスタッフの解雇

試用期間とは?

試用期間は、従業員の適性や能力を見極めるために設けられる期間であり、以下のような法的性質を持っています。

✅試用期間の満了は、有期雇用契約の満了とは異なります。試用期間が満了したからといって、それだけを理由に雇用契約を終了させることはできません。

✅試用期間満了を理由として雇用契約を終了させる場合は、一種の解雇とみなされます。通常の解雇と比べると要件が緩和されていると言われていますが、それでも合理的な理由が必要となります。また、解雇に該当するため、解雇予告や手当の支払い義務も発生します。

有期雇用では期間満了により自動的に雇用が終了するのに対し、試用期間の場合は、解雇としての手続きが必要となる点に注意が必要です。

因みに、有期雇用とは労働契約の期間が予め定められている雇用形態のことです。

懲戒解雇

懲戒解雇とは、労働者の重大な規律違反や非行があった場合に、使用者が懲戒処分の一環として行う解雇のことです。労働契約を即時に解除し、労働者を職場から排除する最も重い処分に位置づけられています。

就業規則等に明記されているなど、根拠規定がないと懲戒解雇はすることができませんし、裁判例をみても懲戒解雇事由に該当するという判断はかなり慎重に行われます。

懲戒解雇が認められるケース(労働契約法第15条)

  1. 懲戒解雇処分の根拠規定があること
  2. 懲戒解雇事由該当行為があること
  3. 懲戒解雇とすることが客観的に合理性があり、社会通念上相当である場合

懲戒解雇に該当する可能性のある例

  • 横領、窃盗、傷害等の刑事犯罪行為
  • 故意または重大な過失による会社の信用毀損や業務上の損害
  • 無断欠勤が継続または頻繁に行われる場合
  • セクシャルハラスメントやパワーハラスメント等の重大なハラスメント行為
  • 企業秘密の漏洩や競業他社への情報提供

懲戒解雇の場合、退職金は払わなくていいの?

懲戒解雇の場合、退職金を支払わないことが一般的ですが、法律で一律に定められているわけではありません。退職金の支払いについては、労働契約、就業規則、労働協約等に基づいて判断されます。
峯岸優子弁護士
峯岸優子弁護士

退職金の支払いに関する規定がある場合

就業規則や労働協約に、懲戒解雇の場合は退職金を支払わない旨の規定がある場合、その規定に従うことになります。ただし、その規定が合理的でない場合は、無効になる可能性があります。

また、退職金を支払わない旨の規定がある場合であっても、退職金の全部または一部の支払いを求められる可能性があるため、使用者は慎重に判断する必要があります。

退職金の支払いに関する規定がない場合

労働契約、就業規則、労働協約に明確な規定がない場合は、退職金の不支給は認められません。

このように、懲戒解雇は労働者にとって非常に不利益な処分であるため、使用者は適正な手続きを踏まえ、慎重に判断する必要があります。安易な懲戒解雇は、権利の濫用と判断され、無効となる可能性があります(労働契約法第15条、第16条)。

まとめ

スタッフの処遇に関する適切な判断と対応が、円滑なクリニック運営につながります。

トラブルを防ぐためにも、法的要件や手続きを正しく理解し、適切に対応することが求められます。状況によっては、専門家に相談することも検討しましょう。

記事監修|峯岸優子 弁護士
(第二東京弁護士会所属)
埼玉県出身・早稲田大学卒業

弁護士業務の傍ら、ご自身も、オンラインサロン・経営者コミュニティ・ヨガ同好会を運営されている起業家でもあるため、同じ経営者目線で経営者の気持ちに寄り添ってくださる、頼りになる先生です。

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