こちらは経営者向けの記事です
前々から気になっていたのですが、特商法に返品(返金)に関して記載しますよね。あれって書かないとどうなるんだろうって・・・本日は、オンラインサロン・オンライン講座・サイト制作者・コンサル業務のようなデジタルコンテンツ(無形商材)を提供している小規模事業者さんは是非知っておいていただきたい「返品」に関するルールに関して、モヤモヤしていることを弁護士の峯岸優子先生にインタビューしてきました!
「返品の可否の記載」に関するモヤモヤ
私の場合、自分の会社のサービスも、顧問先の企業のサービスも、オンラインで情報を提供するコンテンツが殆どで、商品を郵送するようなビジネスモデルではないので「返品」ではなく「返金」になるかと思います。
これまで私は、特商法には『サービスになんらかの瑕疵があった場合は、迅速に対応させていただきます。』と必ず書いてきました。しかし、『返金はサービスの特性上行っておりません』とは書いていない時期もあったんですね。
因みに弊社の場合、高額なサービスが多いため、オンライン通話を利用した商品説明は必ず行っておりましたし、LP(販売ページ)の他、「契約書」「企画書」もお渡ししておりました。
さらに、『サービス着手前であればご返金可能ですが、サービス着手後は返金致しかねます』とは伝えておりました。とは言え、『弊社はご入金直後から迅速に対応するため、入金前に不明点があれば確認して頂き、十分にご検討なさってから入金してくださいね』とお伝えしていました。
Amazonで商品を購入したり、LPを見て販売先の説明を受けずに購入する情報商材のような形態の通販とは少し異なる気がしています。
サービス内容はお客さまによって異なりますが、ざっくり言うと、デジタルコンテンツのプロデュース及び、付随する会員サイトやオンライン講座の構築、そのやり方をマンツーマンで教えるなどです。
が、しかし!
つい最近知ったのですが、経済産業省が出している通信販売のルールに関する資料P4によれば、通信販売の場合、返品不可と記載しなければ、商品等を受け取った日から8日まで解約が可能なのだそうです!因みに、上記の経産省の資料によれば、この場合の返品に伴う送料は購入者負担と法律で決まっているようです。
特商法での「返品可否の記載」と「返品特約」が混乱しちゃうんですよね。
でも、この辺をちゃんと理解してリスクヘッジしておかなきゃ、悪質クレーマーに当たったら大変!
・・・というわけで
小規模事業者のトラブルにお詳しく、ご自身もオンラインサロンやオンライン完結型のビジネスを展開されていらっしゃる峯岸優子弁護士に、通信販売における「返品可否の表示」に関連するモヤモヤを質問してきました!
無形商材は通信販売に該当するのか?
Q1. 私の場合、お客さまとのやり取りは、商談から納品、サポートまで、全てオンラインで完結するのですが、これって「通信販売」に該当するのでしょうか?
「通信販売」該当性
ご質問は、いわゆるイメージど真ん中の有形の物品(モノ)がないものも「通信販売」にあたるのか?ということだと思いますが、有形の物品が登場しない、いわゆる情報提供などの無形商材のサービスも通信販売に該当します。
Q2. 企業案件で、オンラインサロンやオンライン講座のコンテンツを構築するというサービスを提供することが殆どですが、これらのサービスも「通信販売」になるのでしょうか?
通販と聞くと「物販」のイメージが浮かぶのでずっとモヤモヤしていました。
オンラインサロンやオンライン講座のコンテンツを販売する場合も、通信販売になります。
特定商取引法では、商品のほか「権利」や「役務」(何かの行為をする債務)を行う取引についても、規制の対象にしていて、オンラインサロンの利用、サイト制作、コンサル業務もこれにあたります。
返品特約とは?
Q3. 経済産業省が出している通信販売のルールに関する資料のPDFのP4の冒頭には、下記の記載があるのですが、返金しない場合は「サービスの特性上、返金は致しておりません。」と返金しない旨記載することも「返品特約」になるのでしょうか?
通信販売で、商品が届いてから8日間以内であれば、送料を消費者負担で返品を可能にします。ただし、通信販売の広告で返品特約に関する記載をルール通りに表示していた場合はその限りではありません。(特定商取引法改正)
特定商取引法では、商品の引き渡しなどから8日間、購入者等からの返品等の請求ができることになっています。この購入者の権利を「法定返品権」といいます。
ところで、この法定返品権の対象は、商品又は特定権利の販売の場合に限定されています。
つまり、コンサル業務のような「役務提供」の契約には法定返品権は適用されません。これは、コンサル業務などでは、すでに提供されたものについては返品のような概念が想定しにくいからです。詳しくは、Q5で述べます。
話を戻し、商品に関する「法定返品権」については、返品に関する特約が広告において表示されていれば、返品特約となり、返品はしなくてよいことになります。
つまり、広告の表示の中に正しく「返品・返金には一切応じません」と記載されていれば、8日以内であっても返品には一切応じる必要がないということです。
当然ですが、この返品特約がわかりにくい表示となってしまっていたり、インターネット通販の場合に最終申し込み画面で特約が記載されていない、など、ルールに従っていない場合には特約があったことにはならず、原則に戻り、法定期間(8日)内の返品には応じなければならなくなります。
「到着日を含めて8日まで」の計算方法がわからない
Q4. 例えば4月1日に商品が届いたとしたら、4月7日中に返品の意思を伝えると返品が可能ということ?それとも4月8日中に言えばいいのですか?
法定の返品は、「商品の引き渡し又は特定権利の移転を受けた日から起算して8日を経過するまでの間」できることになっています。
この計算方法は、引き渡しの当日を1日目とカウントしますので、商品が届いたのが4月1日だとすると、8日目は4月8日ということになります。
そして、この法定の返品権を行使するための返品の意思表示については、8日以内に販売者に「到達」する必要があります。意思表示が届いていないかぎり応じる必要がありません。この点は訪問販売などの場合のクーリングオフでは8日以内に「発信」すればよい、という扱いと違います。
法定返品権の行使方法は限定がないので、書面を郵便で送るほか、口頭や電子メールでも可能です。したがって、先程の例で言えば、法定返品権を行使する、という意思表示を記載した書面を4月8日必着で送るとか、4月8日に受信されるようにメールを送る、ということでも可能です。口頭、というのは証拠に残らないのでおすすめはしません。
Q5. オンラインサロンやオンライン講座、あるいは、オンラインでやりとりが完結するコンテンツの制作代行、オンラインのマンツーマンレッスンなどの場合、「商品の到着」は「サービス開始日」という認識を持っていればよいのでしょうか?
Q3の回答でのべたとおり、法定返品権の対象は、商品又は特定権利に限定されています。「役務」といえるオンラインサロンやオンライン講座については、適用がないと考えて良いでしょう。したがって、オンラインサロンの販売者は「返品」「返金」をする必要はないことになります。
ただ、「役務だと法定返品権は対象外」というルールについて、一般の方はよくわからないまま「返金すべき!」というトラブルになる可能性もありますので、オンラインサロンなどの役務であっても、予め広告に「返金は一切致しておりません。」と記載しておくのはこうしたトラブルを避けるために良いと思います。
最後に、こうした規約や契約の作成にあたっての一般的なアドバイスになりますが、例えばご質問にあるような「サービスの特性上、返金には応じない」という書き方をしてしまうと、「サービスの特性ってなんだ?」とか「自分の契約は別だから返金に応じるべきだ」などの主張をしてくる人が出てきてしまう可能性があります。
したがって、「返金は一切いたしません」と言い切っていただくのが明確でおすすめです。
本日のまとめ
峯岸先生、お忙しい中、ありがとうございました!
目に見えるカタチのないサービスを提供する事業者や個人が当たり前となった昨今ですが、関係省庁のパンフレットなどは、物販を前提とした例が多く、オンラインでの情報提供やオンラインでの役務提供業者は迷ってしまう事も多い事かと思います。
本日学んだことのまとめを下記に記載いたしました。法律を理解しておけばおくほど、不毛なトラブルは回避できますので、ぜひ、お時間のある時に見返してみてください。
- 情報提供などカタチのないサービスも通信販売に該当する。
- 返品特約とは、法定返品権の対象となるものであっても、LP等の広告に予め「返品できません」と書いておけばそちらが優先されるというもの。
- 特定商取引法に定められている、購入者が返品請求できる権利を「法定返品権」と言う。
- 法定返品権の対象は、商品又は特定権利の販売の場合に限定される。
- 「法定返品権」の計算方法は、引き渡しの当日を1日目とカウントし、返品権を行使するための返品の意思表示は、8日以内に販売者に「到達」している必要あり。
- 事業者は、8日以内に意思表示が届いていなければ返品に応じる必要がない。
- オンラインサロンやオンライン講座は「役務」といえるため、法定返品権の対象外のため、本来、オンラインサロンの販売者は「返品」「返金」をする必要はない。
- 法定返品権の対象ではないオンラインサロンなどでも、トラブルを防ぐため、広告に「返金は一切致しておりません。」と記載しておく方がベター。
「サービスの特性上、返金には応じない」という書き方は、受け手の捉え方によって反論の余地を与えてしまうため「返金は一切いたしません」と言い切るのがベター。
記事監修|峯岸優子 弁護士
(第二東京弁護士会所属)
埼玉県出身・早稲田大学卒業
弁護士業務の傍ら、ご自身も、オンラインサロン・経営者コミュニティ・ヨガ同好会を運営されている起業家でもあるため、同じ経営者目線で経営者の気持ちに寄り添ってくださる、頼りになる先生です。
峯岸優子弁護士の詳細情報
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