問題スタッフの対応に苦慮する院長さまが多くいらっしゃます。中でも「解雇」に関連するトラブルが多いようです。
そこで実際にあった二つの例をあげ、対処法を弁護士さんに聞いてみました。
事例1と事例2は、クリニック院長さまから実際にお聞きしたお話ですが、事例3は、クリニックさまではなく一般企業の経営者さまからのご相談です。
事例1 解雇した「患者さんの前で不機嫌な顔を出す」スタッフ
自分の感情(不機嫌さ)を患者さんの前で出すスタッフに悶々としていました。案の定、スタッフ間でもトラブルメーカーとのことで、堪忍袋の緒が切れ、辞めてもらうことにしました。
「不機嫌な態度を患者さんの前でしないで」と、何度も注意していましたが改善されませんでした。解雇した次の日、勝手に敷地内に入って働こうとしていたので、「警察を呼ぶ」とブチギレました。
50代男性院長さま
Q この場合、どこに注意すべきだったのでしょうか?
峯岸優子弁護士の回答
ご存知のとおり、現在の法律では労働者が保護されています。そのため、従業員を解雇するには、ステップを踏む必要があります。
トラブルになった場合、準備なしに解雇通知を出してしまうと、どんなにこちらに正当な理由があると思えるケースでも、裁判では負けてしまう可能性もあります。
解雇については、労働基準法でルールが決まっており、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効、という使用者(経営者)側にとってみれば厳しいルールが適用されているからです。
ステップというのは、この労働基準法の要件をクリアできるように事実を積み上げるということです。
今回のご相談のように、従業員の方がトラブルメーカーだったというケースであっても、これを理由に解雇する場合は、その従業員が起こしたトラブルにより業務に支障が生じているとか、指導を繰り返しても改善がないなどの事実が必要になります。
したがって、指導の記録を保存しておくことなど、エビデンスを残すことも必須です。
解雇したはずの従業員が職場にやってきてしまうことは想定されますので、まず警察を呼ぶのは良いと思いますが、この後もこの方とのトラブルは予想されますね。
解雇の是非について、判断をするのは最終的には裁判所なので、解雇までの事実の積み重ねをして、裁判で負けない体制を作っておく必要があったと思います。
困ったなと思ったタイミングで、なるべく早く、労働問題に詳しい弁護士や社労士に相談することをおすすめします。
事例2 試用期間終了後に辞めてもらったスタッフとのいざこざ
入職時よりおかしな雰囲気の人で、使用期間で辞めてもらうことににしました。どうおかしいかというと、入職時から私とのやりとりを録音していたのです。他のスタッフもそのことが気持ち悪かったのか辞めてしまいました。
試用期間終了後に辞めてもらうことを伝えると、労基署にかけこまれました。結局、私に落ち度がないことが認められました。
その後、他のクリニックへ就職したそうなのですが、その院長から「●●はどんな人だった?」と連絡がありました。なんと、訴訟を起こされているのだそうです。とてもお困りのご様子でした。
40代男性院長さま
Q この場合、どこに注意すべきだったのでしょうか?
峯岸優子弁護士の回答
以前、テレビで、とあるタレントさんが、「いつでもどこでも録音機を回している」と言う話をしているのを聞いて驚いたことがありました。
最近ではもしかすると「いつでも録音されている」という気構えでいる必要があるのかもしれません。
ところで、試用期間後の本採用拒否については、本採用後の解雇と比較すると、理論的には別場面ではあるものの、リスクヘッジとしては、解雇と同レベルの理由が必要になるものと考えておく方が良いです。上記の解雇のルールが、試用期間後の本採用拒否の場面でも当てはまるからです。
先ほどのクリニックの例でも同じですが、小さな職場でスタッフが多くなく、一人のスタッフが職場内に及ぼす影響が大きいというケースでは、最初から短い期間の有期雇用制度を選択して、原則として期間経過により雇用契約が終了するという形態にしておくことも検討してみるとよいかもしれません。
事例3 何度言っても同じミスを繰り返す能力不足のスタッフ
どこの職場でもあることだと思いますが、何度言っても同じミスを繰り返したり、仕事を覚えられなかったり、明らかに発達障害や知的に問題があるのでは?と思ってしまうスタッフがいます。
そのような方に対して、「合理的配慮を」などと政府は言いますが、そもそも、本人にその認識がない場合、どう接したらよいのでしょう?
うちの会社もですが、取引先の会社などでも、そのようなスタッフが職場の空気を悪くして、周りが鬱になったとか、みんな辞めていったとか、数えきれないくらいあるあるな話なんです!(怒)
注意してもなおらない、「発達に問題があるのではないか?」と指摘すれば「差別」と言われる。私も困っていますが、同じように困っている社長さんがほんとに多いです。
50代女性経営者さま
Q この場合、どこに注意すべきだったのでしょうか?
、あるあるよね~。
峯岸優子弁護士の回答
最低限、採用の際に、我が社ではこう言うことをやってもらうよ、ときちんと従業員に業務内容を示しておくことは必要でしょう。
労働契約書などの合意書面にしておくのも良いと思います。
その上で、その業務内容をしてもらうための研修をきちんとするなど、「これを学べば通常であればできるはず」という環境を整えることも必要です。
能力の高い社長さんや院長さんから見れば「当たり前にできるはず」と思うことでも、これまでの経験などによっては、全然できないということもありえます。
専門性の高い分野の職場などであればなおのこと、やるべき段取りなどについてゼロベースで教育する体制(マニュアルなど)を作っておくのが良いです。
これは「解雇のため」ということに限らず、引き継ぎの場面など、サステナブルな経営にも役立つと思いますのでお勧めです。
教育体制や指導にもかかわらず、なかなか基準を満たせない、という場合であっても、解雇という結論の前に、可能であれば別の業務をする部署などに配置を転換するなどの工夫も求められると思います。
解雇は、それでもどうにも改善されず、業務に支障が出ているという場合の選択肢です。
その人の指導に何をしたか、どれくらい時間をかけたかなど、会社としては最大限やることをやった、という事実を立証できるよう、逐一記録して置くことは必要です。
記事監修|峯岸優子 弁護士
(第二東京弁護士会所属)
埼玉県出身・早稲田大学卒業
弁護士業務の傍ら、ご自身も、オンラインサロン・経営者コミュニティ・ヨガ同好会を運営されている起業家でもあるため、同じ経営者目線で経営者の気持ちに寄り添ってくださる、頼りになる先生です。
峯岸優子弁護士の詳細情報
弁護士峯岸優子ドットコム